- お知らせ
「第52回日本毒性学会学術年会」における第一三共株式会社との共同研究成果発表のお知らせ
2025年7月2日(水)〜7月4日(金)、沖縄県で開催された「第52回日本毒性学会学術年会」において、第一三共株式会社と進めてきた共同研究「ラット腎臓および精巣におけるAIによる病理組織学的病変の安全性評価」が採択され、口頭発表とポスター発表を実施しましたのでお知らせいたします。
本研究は第一三共株式会社とエルピクセル株式会社が2022年より取り組んできた包括提携による成果の一つです。医薬品開発の前臨床試験のうち安全性評価などで行われる病理学的検査では、パソロジスト(病理学の専門家)が顕微鏡を使って大量の標本を観察する必要があり、多大な時間と労力を要します。近年、Artificial Intelligence(AI)による病理組織検査の支援が期待されていますが、学習データに含まれない未知の病変や病理標本の施設間差への対応などが課題となっています。今回、本研究では全身諸臓器・組織の中で腎臓と精巣に着目して、エルピクセル独自の画像解析アルゴリズムにより、未知の病変や病理標本の施設間差に影響されない、病変部位の可視化および異常度の定量化を実現しました。
【学会基本情報】
学会名:第52回日本毒性学会学術年会
公式HP:https://www.jsot2025.jp/
会期:2025年7月2日(水)~7月4日(金)
会場:沖縄コンベンションセンター
【発表情報】
セッション:優秀研究発表賞応募演題 口演4 および ポスター
日時:第1日目 15:04-15:58(口頭発表)、13:00-14:00(ポスター発表)
会場:沖縄コンベンションセンター第6会場、ポスター展示会場
演題番号:P-128E
演題:ラット腎臓および精巣におけるAIによる病理組織学的病変の安全性評価
◯本室 美貴子1)、菊池 魁人1)、甲斐 清徳2)、安野 恭平2)、河合 宏紀1)
1)エルピクセル株式会社、2)第一三共株式会社 安全性研究所
概要:
医薬品開発の前臨床試験のうち安全性評価等で行われる病理学的検査は、多くの標本をパソロジストによる顕微鏡観察する必要があるために時間を要し、研究開発で律速になることが多く、その効率化及び迅速な評価が必要とされます。また、創薬モダリティの多様化によって、これまで遭遇していなかった病変が認められることが増えてきております。
近年、Artificial Intelligence(AI)による病理組織検査の支援が期待されておりますが、学習データに含まれない未知の病変の見落としや標本の施設間差への対応などが課題となっています。本研究では、エルピクセル独自の画像解析AI技術を活用し、ラットの腎臓および精巣について未知の病変や標本作製施設による染色性などの違いに対応した病変部位の可視化および異常度の定量化を実現しました。
- 腎臓
複数の施設で作成された腎臓の正常組織標本を教師データとして学習させ、そこからの逸脱度合いから尿細管※1および糸球体※2の異常を検出するAIモデルを構築しました。これによって、尿細管病変に加え糸球体病変の異常を検出するとともに、正常組織からの逸脱度合いの可視化を実現しました(図1)。特に、標本単位での尿細管の正常異常判定については、感度と特異度はともに100%という精度を達成しました(図2)。糸球体の正常異常判定についても、パソロジストでも判定に迷うような標本が含まれている中で感度88%、特異度53%という精度を示しました(図3)。
- 精巣
複数の施設で作成された精巣の組織標本を教師データとして学習させ、精細管※3の検出・ステージ分類とともに、精上皮細胞※4を検出・細胞種ごとに定量するAIモデルを構築しました(図4)。これによって、目視では半定量的評価であった精細管や細胞種ごとの数の増減について、AIを用いた定量的な評価の実現とともに、より微細な変化を検出できる可能性を示しました(図5)。このAIモデルによる精細管の4段階のステージ分類は平均正解率93%、精上皮細胞の細胞種分類では平均正解率86%という高い精度を示しました(。
今後は、これらの成果によって得られた知見をもとに、病理学的検査へどのように画像解析AIの技術を活用すべきか検討していくとともに、解析可能な臓器を増やすことによって創薬研究のさらなる加速に貢献してまいります。

図1.弱拡大でわかる尿細管の異常を検出するモデルと糸球体の異常を検出するモデルを組み合わせたAIによる標本の正常・異常判定。
(1)腎臓全体の組織構造を予測し、正常構造からの逸脱度合いから尿細管の異常を判定(細胞密度の低下や組織構造が乱れなどを「異常」と判定)
(2)糸球体を個別に検出し、正常・異常を判定

図2.尿細管異常の判定。正常構造からの逸脱度合いを定量することによって尿細管の正常/異常が判定可能であった。

図3.糸球体の正常/異常の判定。評価用データの糸球体異常は5段階評価のうち最も変化が軽微なgrade1の病変であったが、正常データのみを学習に使用したモデルで、上記の精度での分類が可能であった。

図4. 精細管における精細管のステージと精上皮細胞の細胞種の予測結果。

図5. 本手法を用いてコントロール群(紺)とパソロジストによる鏡検で病変が見つかった薬剤投与群(橙)を比較した結果。精細管はStage1-6、7-8の割合が減少しStage9-11、12-14が増加、精細管あたりの細胞数は一貫して減少する様子が見られた。
※1尿細管:糸球体と腎盂をつなぐ管であり、糸球体から排出された尿から体に必要な成分を再吸収して血液中にもどし、不要な成分を尿として排出する役割をしています。※2糸球体:腎臓の組織構造の一つであり、細い毛細血管が毛糸の球のように丸まって、そこにはフィルター機能を有する足細胞、毛細血管の間を埋めるメサンギウム細胞で構成されており、血液中の老廃物などをろ過して尿として体外に排出する機能があります。
※3 精細管:精巣の組織構造の一つであり、曲がりくねった細長い管が多数集まって存在します。内部では精子形成が行われ、精祖細胞から精母細胞、精子細胞を経て精子へと分化する過程が進行します。
※4 精上皮細胞:精細管の内腔を構成する細胞群の総称で、精子形成に関与するさまざまな段階の生殖細胞(精祖細胞、精母細胞、精子細胞など)と、それらを支持し栄養や保護を与えるセルトリ細胞から構成されています。基底上にある精粗細胞から内側に向かって分化が進行します。
【第一三共株式会社とエルピクセルの包括提携について】
エルピクセル株式会社は第一三共株式会社に対し、研究領域のみならず開発・製造を含むAI画像解析技術の活用が期待される全てのバリューチェーンを対象として、2022年より包括的に技術支援を行っています。これにより、第一三共社内での潜在的なDXニーズを顕在化させ、新規モダリティの活用による革新的医薬品の創出に向けた様々な業務プロセスの変革と加速化を支援しています。
※2022年7月20日 第一三共株式会社によるプレスリリース「画像AI解析に関するエルピクセル社との共同研究成果及び
後の展開(包括提携契約締結)について」
【エルピクセル株式会社について】
エルピクセル株式会社は、ライフサイエンス領域の画像解析に強みを持ち、医療・製薬・農業分野において画像解析技術、とりわけ人工知能技術を応用することで、高精度のソフトウエアを開発してまいりました。医師の診断を支援するAI画像診断支援技術「EIRL(エイル)」、創薬に特化した画像解析AI「IMACEL(イマセル)」を軸に事業を展開しています。
コーポレートサイト:https://lpixel.net/
公式ブログ(Note):https://note.com/lpixel/
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